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鳥取地方裁判所 昭和44年(ヨ)35号 決定

申請人

浜田章作

代理人

君野駿平

被申請人

株式会社山陰放送

代理人

花房多喜雄

主文

被申請人が、昭和四四年八月一一日付で申請人に対してなした申請人を被申請人広島支局への転勤する旨の命令の効力を仮に停止する。

理由

一記録によれば申請人は、被申請人に雇傭され、被申請人の松江支局に勤務するものであつて、被申請人従業員で組織されている組合(以下単に組合という)の組合員であり、かつて同組合副執行委員長、法対部長の役職に就任したことがあり、外に山陰地区マスコミ関連産業労組共斗会議副議長の地位にあること、組合は、昭和四〇年六月、分裂したが、右分裂と組合書記長配転について鳥取地方労働委員会(以下「地労委」という)に対し救済を申立てたこと、右申立が棄却されたので組合は中央労働委員会に再審査の申立をしたこと、申請人が右救済申立事件で組合側の補佐人となつていること、申請人が被申請人より主文掲記の転勤命令を受けたこと、申請人が夫婦共稼の身であることは当事者間に争がない。

二ついで申請人提出の疏明資料を総合すれば、

(1)  前記救済申立事件において「地労委」はその判断の結論において組合の前記分裂につき「会社(被申請人)の組合に対する態度に疑念を抱かせられるような点もなかつたわけではない」との判断を示していること、

(2)  申請人は、右救済申立事件につき殆んどの右審問期日に出席し被申請人側証人を含め多数の証人に対し証人尋問を実施し、また、再審査申立事件においては、第一準備書面を作成し弁護人の活動を補助する等して右組合のため積極的に活動していること、

(3)  被申請人は、申請人に対し同人が同四〇年六月二五日、スト解除後の就労時刻が遅れたこと、また同四二年七月には「地労委」の審問期日で、主尋問に関連して営業成績の具体的数字をあげて反対尋問したことをそれぞれ理由として始末書の提出を要求したこと、

(4)  申請人は、肩書地に申立外妻多恵子、同長男(同四二年生)同長女(同四四年生)と同居しているが、妻が島根婦人少年室に勤務している関係上本件転勤命令により妻子と別居するか妻が退職するかのいずれかを選ばざるを得ないこと、

以上の事実が疏明せられる。そして右の諸事実を総合すると、他に特段の事由が認められない限り申請人は活発な組合活動を行なつたことにより被申請人から嫌悪され、申請人にとつて不利益な本件転勤命令を受けたものと推認される。

三ところで被申請人提出の疏明資料によると、被申請人はその営業地域内の松江市において島根放送が新しく開局され、これと競争関係に立つところから、全般的に営業面を強化する必要にせまられその一環として広島支局も営業部員一名を増配置する必要のあつたこと、その選衡基準として同部署に在職五年以上にしてかつ営業の経験を有するものとしたことが認められるけれども、被申請人はそれ以上の具体的な「選衡基準」や特に申請人を選んだ事由について何ら主張、疏明をしていないのであつて、右認定事実をもつてしては前記推認を覆すに至らない。

また申請人が取引先の松江営業所長を匿名の投書で誹謗した事実が認められるけれども右に関しては被申請人は、既に同四四年二月二五日、申請人を譴責処分に付し、それに関連した職員の異動も同年五月一日には終つていることが認められるのであつて、右の事実をもつて申請人を松江支局におくことを不適当とするものとは考えられない。

そして他に被申請人は右の特段の事由を主張、疏明していない。

四以上の諸点を総合すると、本件転勤命令は労働組合法七条一号所定の不当労働行為に該当し、無効といわざるを得ない。

五そうして本件疏明資料によると、申請人がこのまま本件転勤命令を拒否し続けるにおいては、右転勤命令を前提としてひき続き更に被申請人から不利な処分を受ける虞があるものと認められるので、今において、右転勤命令の効力を仮に停止しておく必要性が充分あるものということができる。

六よつて、申請人の本件仮処分申立を認容し、主文のとおり決定する。(中村捷三 小北陽三 中川隆司)

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